チームPLUS 1

店主敬白

4.身内の反応

詩織の幼い笑顔が、私と目の合った一瞬で凍った。目を見開くコト約10秒、
「うェーン・・・コワイ、コ・ワ・イ、よーぉっ・・・」
と彼女は泣き叫んだ。そのまま台所に駆け込み、ご馳走の用意をしてくれているおバアちゃんの影に守られて、泣きじゃくり始めた。

 お話しは少し戻って、「オレもマっつぁんのように独立しょっ」って決めた年。海の向こうではマドンナが♪ライク・ア・バージン♪とか腰を振りながら、日本では良く分らないけど、金曜日の妻とかいう人たちが♪ふぉ~りんらぶぅナンチャラ♪とか歌いながら暮れていった。明けて正月、3日の出来事でした。

 カァちゃんの3姉妹が家族を引き連れ、揃って実家で飲み明かして新年を祝う毎年の恒例行事。ちなみにカァちゃんは長女。妹達の名誉のために敢えて書きますが、妹2人はエンマ様でも鬼子母神でもありません。昔はとてもキレイだった普通の人間のオバさんです。詩織は上の妹の長女です。私の姪ってコトになります。
 独立宣言をちゃんとしたカタチでしたかった私は、考えた。どの様に「ちゃんと」するか。「カタチ」にするか。思い起こせば、義父母には縁の始まりの初っ端から驚きをもたらし、心配を掛けた。はず。
また、ここで驚いたり心配するだろうけど、ここは1発、「決意の程」とかが「見えるカタチ」で少しくらいは心配をやわらげたかった。新年ってこともあり、自分自身にも「今ままでとは違う年になるんだモンねっ」ってケジメを付けたかった。
 どうやって「ちゃんとしたカタチ」にしようか・・・沢山のコトバ(独立にあたっての動機もそんなに「ちゃん」としてないし)、強い意志(も見せようが無いし)、店もカタチがあるわけでも無いし・・・。
よし、先ずはカタチ。カタチだよなぁ。心意気を見てもらおう!と、年始の挨拶に坊主頭で臨んだ。その気負いもあって、相当ひきつった顔をしていたはず。しかも、それまで伸ばし放題だった頭髪が突然無くなっている。義父と妹達の家族が打ち揃って待つ中、一家を引き連れズ、ずんっと居間に入った。詩織は、知らない怖い顔のオジさんが正月早々乗り込んで来た!と大泣きした。

「新年おめでとうございます。本年も宜しくお願いします。えェー・・・皆さんお揃いのこの場で報告します。いきなりですが、・・・えェー今年、・・・ボク、会社辞めて独立することにします」

と、挨拶と同時に宣言、カタチを整えた!
暫く無言の時間が過ぎる。「やっぱり皆思うコトは同じだろうなぁー」と、この沈黙を「予定」としてけっこう落ち着いて受け留める私。義父が言った。

「そうか、そりゃおめでとう。重ねてめでたい」

義兄弟のトシさん、アキちゃんも言う。

「そりゃーえぇ。うん。おめでとう」

と、何も聞かないうちから喜んでくれた。あんなに色々用意した説得、説明の言葉はパッと何処かに飛んでいった。

なんか、拍子抜けした独立宣言となった。

 先だって、勝手に自分で想像していた反応に全く反した身内の反応。それに、かえってたじろいでしまった私でした。「断りも無く、無理やり娘を盗っていって、今度は会社辞めるって?ホンマに大丈夫なんかいな。この男に娘預けておいて・・・」と心の何処かで思う筈の男親。それが、「そりゃーおめでとう」の一言だけ。そして「さぁ、飲もう」と。オヤジは不安や不平を微塵も見せなかった。
 大企業の安定したサラリーマンの奥さんを長年続けたカァーちゃんの母親は、さすがに心配そうな背中を台所で見せていた。包丁を持つ手まで見えなかったが、明らかに切り口は乱れている様子。

「あ、そうなの。そりゃそりゃ。頑張んなさいよ」と、すっきりあっさり受け留められると、「ほんまにえーんかなぁ、大丈夫なんかなー」と、一瞬だけども自分の方が心配になったりする。
おかしなモンです。

 先だって、津山のおふくろに独立しよと思う。じゃない。「独立するんだ」と報告した。その時も、

「あんたが決めたんなら、そうしんちゃい」

と、一言で終わった。その時も少しばかりの肩すかし的意外性を感じ、不安ていうのかナンていうのか親父の墓参りをした。
3歳の時の原体験が年と供に気持ちの中で大きく育ち、
「タンクの上に乗っけてくれたあの日がモトで自分の人生決まったよ。頑張るから見守ってくれよ」
と親父の墓の前で手を合わせた私でした。

「まー仲間もおるし、どうにかなるじゃろ」

すぐに元の自分に戻って「飲むぞモード」に突入。33歳と8ヶ月で正月を迎えている私。